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行政書士のプロローグ & モノローグ

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「マルクスの逆襲」(三田誠広、集英社新書)

 今週、NHK教育テレビで、「一週間de資本論」が放送された。『マルクスだったらこう考える』(光文社新書)の著者、的場昭弘を中心に、森永卓郎、湯浅誠といった多彩なゲストが登場し、資本論を今日的問題に引きよせて解説し、大変興味深い内容となっていた。ソビエトが崩壊した後になってから、グローバリズムと金融資本主義が世界中を席巻し、マルクスの予言りになってきたというのは皮肉以外の何物でもない。番組で紹介された通り、マルクスの指摘は慄然とするほど現代の状況を言い当てている。以前より私はマルクスは、モーゼ、イエス、マホメッド、ノストラダムスといった預言者の系譜に連なる人物ではないかと考えていたが、いよいよその思いを深くしている。
 そんな折、本書を手にした。まず『マルクスの逆襲』というタイトルが刺激的である。しかも著者は三田誠広……。若い人は知らないかもしれないが、『僕って何』で鮮烈なデビューを果たした芥川賞作家である。
 しかし、まえがきには、古老が昔語りをするように、若い人に自分たちの経験した学生運動について伝えていきたいと書かれており、思わずのけぞってしまった。私にとって著者は、新世代の旗手といったイメージが強かったからだ。団塊の世代の著者はすでに60代であるが、古老にたとえるには早すぎる。
 ちなみに私は、三田より一回り下なので、大学はすでに鎮静化しており、学生運動にまつわる話を聞く機会もあまりなかった。この本では、赤ヘルを初めとする三派全学連に関する基本的な解説がなされており、その点では大変勉強になった。
 当時、団塊の世代のほとんどは、マルクス主義が正しいと信じていたらしいが、その後、就職してから、自分の価値観をどのように社会に適応させていったかについても、本書では書かれている。大体次のようなステップを踏んで、マルクスへの信仰を捨てて行くのだと言う。まず、自分たちが理想視していたはずの社会主義国家が、どうも日本より貧しいらしいということに気づきだす。次に、赤軍派などによるテロ事件が報道され、これにはついていけないという思いを深くするとともに、このようなテロ行為がマルクス主義そのものから生じる問題ではないかという疑問が湧いてくる。そして、ソビエトの崩壊がダメ押しとなって、マルクス主義信仰を完全に捨てることになる。
 このような棄教のステップは、多くの団塊の世代に共通するものではないだろうか。逆に言えば、1991年のソ連崩壊まで、マルクス主義を捨て切れなかったということになる。そして著者は、実は、日本こそが計画経済を実現させたマルクス主義国家だったことに、はたと気づいたというのだ。まるで、「幸せの青い鳥」のような結末だが、これはちょっといただけない。この結論は、芥川賞作家の決め台詞にしてはあまりにも陳腐すぎる。確かに日本独特の護送船団は計画経済に近いものだったのかもしれない。しかし、それが似非マルクス主義であったことは、小泉構造改革でなし崩し的に格差社会を招来させてきたことからもうかがえる。
 いずれにせよ問題は、今日まさに「マルクスの逆襲」とでも言うべき事態に立ち至っているということを、かつてのマルクス主義者たちがどのように受け止めているのか、ということである。結局、三田の抱いている思いとは、次のようなものであるという。すなわち、社会に貢献する優良な企業に投資したり、農業の再生に尽力したり、家族や郷土を大切にして、グローバリゼーションに逆行する行動に各人が心がけ、生きがいのある社会を構築することだと言う。
 誠に健全で、常識的な結論だが、正直言ってがっかりした。前項の「文明の衝突」でも触れたが、これは、功なり名を遂げ安定した社会的地位を得た者の大人の感覚であり、破壊本能を制御できない若者たちや、多額の借金を抱えて夜逃げしたり、野宿している人々の思いとは、全くかけ離れている。明日首をくくろうとしている者に対して、このようなメッセージを投げかけたとして、何の役にも立つまい。マルクスは、19世紀のロンドンで同じような光景を目の当たりにし、搾取されている労働者たちに対して革命を呼びかけた。もちろんその後の歴史を紐解けば、軽々に同じ言葉を口にすることはできないであろう。しかし、「マルクスの逆襲」と言うからには、もう少しラディカルなメッセージがほしかった。



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